2007年03月15日

『アイの物語』山本弘

[ Book]

ヒトが敗北し,地球の支配者がマシンになった未来.
人々の間を渡り歩いて物語を集めている人間「語り部」は,アンドロイド「アイビス」との戦いで負傷,マシンの都市で療養することになる.
怪我が治るまでの間,「語り部」は「アイビス」の語るヒトとマシンに関するフィクションの物語に耳を傾けることになる...

卒業生にして同僚な人に貸してもらった本.
作者はSFやファンタジーも書く作家なのだが,世間的にはと学会の会長というイメージの方が強いのではないだろうか.
しかし,この作品,非常に面白かった.

形式としては,短編集でもあるし,長編作品でもあるという,ちょっと複雑な形式.
1つの物語の中に独立した物語が6本(あるいは7本)入っているという構造なのだが,現実とバーチャルという一つのテーマで最終的に結びついていく.

そもそもはバラバラに発表されていた短編をこのような形式でまとめたものなのだが,そのためか,各短編ごとに作風がかなり違っている.
で,正直なところ,最初の4話については普通,第5話については最初は「ダメだ,受け付けない!」とまで思ったくらい(後半になって盛り返したが).
その印象を一気に塗り替えたのが第6話の「詩音が来た日」.老人介護の現場にロボットがやってくるという話なのだが,これがめちゃくちゃ面白かった.
最終話の「アイの物語」も面白かったのだが,それ以上に「詩音が来た日」が良かった.それほどSF,SFしていないので,SFが苦手な人にも面白く読めるかも.
本の雑誌が選ぶ2006年度ベスト10〉第3位に選ばれたらしいのだが,それもうなずける.

これまで,「と学会会長」のイメージが強すぎて,この作者の本は読んでこなかったんだけど,ちょっと興味が出てきた.『神は沈黙せず』も面白いらしいので,読んでみようかなあ.

最後に気に入った箇所を引用.

「記憶を作りましょう。あなたにはまだ時間があります。楽しい記憶を作るだけの時間は、十分にあるはずです。」
詩音「詩音が来た日」
「理解できなくていい。ただ許容して」
アイビス「アイの物語」