2007年05月08日

『かげろう絵図 上下』松本清張

[ Book]

将軍職を退くも大御所として権力を振るう「徳川家斉」.その愛妾の養父としてこの世の春を謳歌する「中野石翁」とその一党.これらの勢力の一掃を図る老中「水野忠邦」と寺社奉行「脇坂淡路守」.
脇坂を助けるため,旗本の「島田又左衛門」は姪の「縫」を「登美」として大奥に送り込む.一方,又左衛門の甥「新之助」とその友人である医師「良庵」もふとしたことから騒動に巻き込まれることに...

入院中,同僚が差し入れてくれた本.
この本が選ばれた理由は定かではないが,文庫ながら上下で1100ページという大作という長さ&「著者が『愉しさを第一に』取り組んだ傑作時代小説」(紹介文より)が暇つぶしにちょうどいいと判断されたのかな?

著者は有名な松本清張なのだが,実は私は松本清張作品を読んだことがない.映像化されたものはいくつか見た記憶はあるんだが.
その貧弱な知識からすると,「松本清張=現代(戦後)を舞台にした社会派ミステリ作家」であり,本作のような時代劇も書いていたとは全然知らなかった.巻末の作品紹介を見る限りでは,時代劇は他にも書いているみたいで,ちょっと意外だった.

で,内容の方は,両陣営の腹の探り合いというか,ジャブの応酬ばかりで,なかなか話が進まない.
うーん,イライラするなあ,と思いつつ,下巻に入ったところ,ちょっとずつ話が動き始め,いくつかドーン!と話が進んだと思ったら,最終的には「へっ?!」という結末.
なんじゃ,そりゃ?と思っていたら,主人公である「新之助」が最後にまとめてくれた.なるほど,こういうところが松本清張=社会派ということなんだな.

なお,本作では「水野忠邦」が(どちらかというと)正義の味方なのだが,『風雲児たち』を愛読している身としては,どうしても悪者にしか思えなかった.
しかし,よく考えてみれば,『風雲児たち』でも悪いのは鳥居耀蔵であって,水野忠邦がメインで悪者というわけではなかったか.