2006年09月13日

『初恋』中原みすず

[ Book]

1966年,孤独な女子高生「みすず」は,とあることからジャズ喫茶に入り浸る不良グループと親しくなる.そして1968年,そのグループの中でも異質な存在である「岸」から,とある計画を持ちかけられる...

6月に観た宮崎あおい主演の映画『初恋』の原作.
映画評をネットで検索していたところ,原作の評価がかなり高かったので,いつかは読まないとなあと思っていたところ,卒業生にして同僚な人が貸してくれた.

映画を観た時点での映画に対する私の評価は過去の記事を読んでもらいたいのだが,この原作を読んで,映画に対する評価がかなり変わった.

あの映画,というか,あの映画の脚本,実はよくできてたんだ.

女子高生が三億円事件の実行犯になるというメインは全く同じだし,そこに至る経緯もだいたい同じなのだが,いろいろと違っているところも多く,全体的には別の話になっているといっても過言ではない.

原作の方は読んだ人が「これが三億円事件の真相に違いない!」と思ってしまうほど,リアルというか,三億円事件が終わったあとの登場人物たちのその後が現実っぽい.言い方を変えればズルズルしている.
これに対して,映画の方は三億円事件が終わって,その後の種明かしが終わった後はスパッと切ってしまっているというか,一つの作品として完結されている感じ.
どちらがいいかは作品に何を期待するかによって違うだろう.

また,一方の主役である「岸」の設定もかなり違っていて,これは映画と原作のどちらがいいかについても評価の分かれるところだろう.
ちなみに私は映画の設定の方が断然いいと思っているし,あの設定があるからこそ,あの元ちとせの「青のレクイエム」が流れるシーンが生きてくるんだと思う.

で,最大の違いだと思ったのは,小説では「みすず」が「岸」に協力するのがかなり軽いノリのように思えたのに対して,映画ではそのあたりの心情の高まりを丁寧に描いていたこと.
まあ,これがあまりにも丁寧すぎて,映画を観ている人には退屈に思えてしまうこともあったわけだが.

小説が映像化される場合,「読んでから観るか,観てから読むか」ということがよく言われるわけだが,ほとんどの場合,「読んでから観る」と失望しがちで,「観てから読む」と原作のよさを実感できる.
しかし,今回の私の場合,珍しくその逆パターンで,「観てから読む」ことで,映画のできのよさを再発見してしまった.うーん,DVDがでたら借りてもう一度観てしまうかも.