2007年02月26日

『ねじの回転』恩田陸

[ Book]

時間をさかのぼって歴史に介入することができるようになった未来.
しかし,その介入によって発生したと思われる伝染病のため,人類は滅亡の危機にさらされることになった.
本来の歴史に戻すため,国連のプロジェクトは2.26事件を当事者の協力を得てなぞり直すのだが...

メジャーな賞こそ獲っていないものの,多くの作品が映像化されいる有名作家である恩田陸の作品.
これだけ有名な作家なのに,私は恩田陸作品をあまり読んだことがない.読んだのは『六番目の小夜子』くらいかな? 別に毛嫌いしているわけでもないのだが,どうも縁がないようで...
しかし,この『ねじの回転』は私が好きな時間物の名作という評判なので,期待して読んでみた.松山市立中央図書館所蔵.

読み終えての感想だが,時間物なので仕方がない側面もあるのだが,話がややこしい.
なぞり直した歴史のズレが許容範囲を超えれば時間をさかのぼってやり直すという設定が,それに輪をかけている.
最後の方はこれにもう一つの要因が加わるので,さらにややこしくなっている.

それに,ところどころに変わってしまった歴史や過去の回想などのシーンが挿入されるのだが,それで余計に混乱してしまった.
特に牛乳屋のシーンは誰のいつの時点の話なのかが分からず,最後の方でようやく意味が分かったくらい.

そういうややこしさはあるし,最後の方は急ぎ過ぎ&安直な気がしないでもなかったものの,全体的には面白かった.特に中盤のあたりは話に引き込まれてしまい,一気に読んでしまったくらい.

同じ時間物で2.26事件を扱っている作品としては宮部みゆきの『蒲生邸事件』があるが,同じ題材なのに話は全然違っている.
SF度はこの『ねじの回転』の方が圧倒的に高いけど,個人的には『蒲生邸事件』の方が好みかな.

最後に気に入った箇所を引用.

「なぜかは知らないけど、神は人間に好奇心という起爆剤を与えたんだ。人間が得た最大のギフトは知能じゃない、好奇心だ。好奇心、それ自体が目的となって、人間は冒険を続ける。好奇心が、理性も倫理も道徳も飲み込み、人間をそれまで見たこともない地平へと押しやる。その対象が宇宙であれ、生命であれ、歴史であれ。
天国へ行くのか、地獄へ行くのか分からないが、好奇心という最強の武器の前には、タブーなんかない。地獄すらも、我々にとっては新しい地平なのかもしれないよ」
アルベルト