2007年03月26日

『ぼくのメジャースプーン』辻村深月

[ Book]

小学校でかわいがっていたうさぎが殺される現場を見てしまい,心を閉ざしてしまった「ふみちゃん」.
「ふみちゃん」の幼なじみで,相手の行動を縛る能力を持っている「ぼく」は,同じ力を持つ「先生」のところに,力の使い方を教わりに行く.
うさぎを殺した犯人に与える「条件と罰」を決めるために...

『凍りのくじら』『冷たい校舎の時は止まる』で,少々痛いものの,かなり面白い作品を書いてきた辻村深月の4作目.松山市立中央図書館所蔵.

発表時期としては『凍りのくじら』の後になるわけだが,これまた面白い&道徳の教科書に使えそうという希有な作品.

大学教授の先生が小学4年生の主人公に対して,正義や復讐について色々と話をして考えさせるシーンが半分くらいを占めているところが道徳の教科書的なのだが,絶対的な価値観を一方的に提示するのではなく,いろいろな価値観について考えさせるので,全然退屈ではない.

そのテーマもテーマだし,主人公の一人称小説で子供らしい独白も多く入っているため,読んでいて「これって児童文学?」と錯覚してしまうこともしばしあったが,これまでの作品同様,ちゃんとした謎が隠されているので,立派なミステリ作品だろう.

あと,この作者の特徴である「痛さ」については,主人公が小学生のためか,全くと言っていいほど目立たないので,その手の作品がダメな人にもオススメ.
個人的な評価では,『凍りのくじら』の痛さ&ラストの盛り上がりの方に軍配が上がるが,一般受けという点からすると,本作の方が評価が高いかな.
どちらにせよ,かなりの良作なので,「古本屋で発見したら確保するリスト」に入れておくことにしよう.

ちなみに,伊坂幸太郎作品と同じく,いろいろな作品とリンクしているらしい.
特に,まだ読んでいない『子どもたちは夜と遊ぶ』と密接な関係があるらしく,ある種ネタバレになっているそうだ.
ううっ,読む順番を間違えた...